頭への電流気刺激による学力向上事例
頭への電流気刺激で数学的能力が向上する
MCTとは別に電流を頭部に流して脳機能を変化させたという報告がある。
科学ニュースの森より引用し、以下に示す。「背景:現代社会では、一般の人々は教育を受けなければ生きていくことは難しく、またその出来によって将来が左右されてしまうことが多い。最も重要な基礎教育については、ほぼ確立された教育法があるが、それをさらに補うことはできるのだろうか。
要約: 学校教育では、Reading(読み)、Writing(書き)、Arithmetic(算数)の「3つのR」が重要だとされているが、もしかしたらRandom electrical stimulation(無作為電気刺激)という4つ目のRが加わることになるかもしれない。
オックスフォード大学のRoi Cohen Kadosh博士らによって、頭蓋骨の上から弱い電流を流すことで、長期間にわたって計算力が向上することが分かった。この実験ではオックスフォード大学の少数の生徒を対象に行われたため、Cohen Kadosh博士によると、もし大規模な実験によって安全性と効果が証明されれば、通常の教育を補足するものとして利用できるようになるかもしれないという。
数学が苦手な人々は成功しないとよく言われるが、そのような不利益をこうむる生徒をなくすことができるだろうという。Cohen Kadosh博士らは、今回の研究以前にも電気刺激を利用した類似した研究を発表していた。そこでは経頭蓋直流刺激(Transcranial Direct-Current Stimulation、tTDCS)によって、馴染みの薄い記号を使った数系を学ぶ能力の向上が示された。tDCSでは頭皮の異なる部分に電極を配置し、片方の脳細胞を活性化させ、もう片方の脳細胞を不活性化させる。このとき被験者は、赤ちゃんが自分の髪の毛を引っ張るような感覚になるようだ。
しかし今回は、経頭蓋ランダムノイズ刺激(Transcranial Random-Noise Stimulation、tRNS)という手法が利用された。
tRNSでは、いくつかの電極にランダムで少量の電流が流れ、脳の様々な部位が活性化される。このとき被験者は、ほとんどなにも感じることはないようだ。そしてこれら2つの方法の危険性が示されたことはない。
この実験で彼らは、25人のオックスフォード大学生に協力してもらい、「2×17=34」のように単純な計算や「32-17+5」のように少し複雑な計算を記憶してもらった。そのうちの13人には5日の実験中、tRNSを高次の認知能力を司る前頭前皮質に受けてもらった。
すると、電流刺激をほんの少しだけ受けた他の人々に比べて、これらの問題を早く解くことができるようになった。
そしてその6ヵ月後、今度は電流刺激を利用しないで同様の問題をどれだけ早く正確に解けるかを実験した。
すると以前にtRNSを受けた生徒は、そうでない生徒に比べて平均28%(1秒以上)早く問題を解くことができた。Cohen Kadosh博士らは、数学的でない暗記問題についても実験を行ったが、こちらは2つのグループの成績に差は出なかった。
また彼らは、同時に脳の特定の部分への血流を測ることのできる近赤外線分光器によって、生徒の脳の活動を観察した。すると、tRNSを受けた6ヵ月後の生徒ではそうでない生徒に比べて、計算時には前頭前皮質が素早く活性化することが分かった。このことから、計算力の向上は認知能力の向上によって起こっているのだろうと考えられるという。
カナダはウェスタンオンタリオ大学のDaniel Ansari博士によると、この発見はとても興味深いという。しかし6ヶ月後の結果については、実験に戻ってきた生徒が12人と少なかったこともあって、疑問が残るという。
またここで行われた実験はとても工夫されており、この方法で数学力が上がったわけではないことに注意が必要であるという。そのため実際の教育現場への応用には特に慎重にならなければならない。
Cohen Kadosh博士は、今回の実験では世界的に名の知れた大学の学生に協力してもらったため、今後はより大規模で未熟な子供たちを対象に実験できることを希望している。この新たな手法による計算力の向上は、約20%の子供が何らかの形で持っている計算障害の解決策として、必要とされているだろうという。
tRNS用の機器はそれほど簡単に手に入れられるわけではないが、tDCSの方は数百ドル以下で簡単に手に入ってしまう。Cohen Kadosh博士は、どのように脳に刺激を与えたらよいのか、また効果が出ないというeメールをよく受け取るというが、このような手法を実験室以外で試さないようにと注意を促している。
数学的能力が向上するTDCSと顔面微弱電流刺激との違い
微弱電流であれ、低周波電流であれ、直流電流を持続的に神経回路に与えると非常に強い倦怠感を受ける(鬱に近い状態)になることは我々も確認している(未発表データ)。
これは、持続的に神経細胞に電流が流れると、簡単に言えば、神経細胞が疲労すると考えられ、神経回路に通電する場合は電流の種類、強度、頻度を間違えば全く予期しない結果を招くことがあることを示している。
我々のMCTとCohen Kadosh博士の(Transcranial Random-Noise Stimulation、tRNS)での通電方法の違いは大きく2つある。第一の相違点はCohen Kadosh博士は直流電流を用いているので少なくとも1mA以上の電流を用いていることである。
しかし、我々の用いた微弱電流では電流の大きさは1mAよりきわめて小さい0.1mA以下である。MCTに用いられる電流の大きさが0.1mA以下であるため、四肢に電極を貼り、微弱電流を流しても刺激として感じることはないが、顔面に小さな電極を用いて微弱電流を流せば、刺激として感じることができる。これは微弱電流が神経回路に流れたために電流を刺激として感じたことを示している。第二番目の相違点では通電方法で、我々は電流刺激にインターバルを設定しており、通電と通知覚としては電休止を繰り返すことである。この相違点により神経細胞の電気的疲労を防いだ刺激としている。Cohen Kadosh博士の方法は多くの電極を用いてそのいずれかの電極で通電刺激を行うようにしており、電極から刺激を与える際には間欠的(インターバルを持つ)に電流を流していると考えられるが、常にどこかの電極から電流を流すため神経細胞に電気的休止時間を与えるようには設計されていない。したがって、Cohen Kadosh博士のtRNSと我々のFNSは電気生理学的に全く異なると考えられが、我々のMCT(4)とCohen Kadosh博士の方法、低周波による刺激(1)では電気的刺激が神経回路に変化が起こせることを示している。
培養した脳でロボットを動かせる
しかしながら、MCTなどの電流刺激により神経回路が変化する理由は解明されていない。最近、共同通信からのニュースに掲載された興味深い実験を紹介する(1)。
「培養したラットの脳細胞が出す電気信号で小型ロボットを障害物にぶつからないように動かす実験に成功したと、英レディング大の研究チームが発表した。人間やコンピューターからの指示は一切なかった。
脳の発達や記憶の仕組みの解明に役立つほか、生体の脳で機械を直接制御する技術として注目を集めそうだ。英レディング大の研究チームによると、ラットの胎児から脳細胞を採取して酵素でばらばらにし、約60の電極が付いた小さな容器に入れて培養。脳細胞が成長して出すようになった電気信号を、円筒形の2輪走行ロボットに無線で送り、ロボットを動かした。
ロボットには超音波センサーを搭載。障害物に近づくと特別な刺激が脳細胞側に送られるようにした。
ロボットは最初、障害物に衝突を繰り返したが、そのうち“学習”して衝突を回避するようになった。
チームは「培養した脳でロボットを動かした最初の例だ」と指摘。さまざまな刺激を与えて特定の動きをさせるよう訓練するという」。
この研究は神経回路を作るように神経細胞が遺伝的にプログラムされており、電気刺激により神経回路が作られることを示している。
さらにわれわれは過去の特許第5053826号でも末梢からの低周波電気刺激が発達障害、脳機能障害に有効であったことを示した(2)。これは末梢からの電気刺激でも神経回路に変化が起きることを示している。認知症では運動、計算や読書などが認知症の進展を遅らせることは広く知られた事実であり、読書、運動、計算などの脳機能を活性化する行為は神経回路に必ず電流を流すことにつながる。MCTでは治療される人が読書や計算、運動ができない場合でも微弱電流を顔面から神経回路に流すことにより読書や計算、運動を行った場合と同等、もしくはそれ以上に脳機能を活発化させると考えられる。これがMCTを認知症の予防になる治療法と考える根拠となる。
参考文献
- (1)共同ニュース 47-News
- (2)特許公報:特許第5053826号、平成24年10月24日